自分でこういうのもアレだが、どうやら自分は優しく見えるらしい。初対面の人にも「なんか優しそうなオーラが漂ってる」と言われたことがある。

そのせいなのか分からないが、道を聞かれることや、キャッチや勧誘にあう機会も多い。

キャッチや勧誘に関しては「興味ないんで」とスパッと断れれば楽なのだが、それでは相手が可哀想なので、とりあえず話を聞いて、その後断るという互いに不毛な時間を過ごしてしまうことがしょっちゅうだ。

キャッチぐらいならまだ可愛いものだが、見知らぬオッサンに金をたかられることも多々ある。

流石に断るが、怒ったオッサンが逆上して襲ってこないか心配でビクビクしながら足早にその場を去っている。

1週間前も、見知らぬオッサンに金をたかられた。
その日はパチンコで大勝ちし気分良く帰っていると、突然声を掛けられた。

「兄ちゃん、家帰りたいんだけど交通費が無くてよぉ〜貸してくれない?」

彼らの常套句だ。何故か分からないが、こういう人達は決まって「帰る交通費が無い」と言ってくる。

金額を聞いてみると3000円と言ってきた。
「そんな高いのにどうしてここに来たねん!」とツッコむ気持ちを抑え、いつも通り穏便に断ろうとした。

「あぁ〜それは大変ですね…気持ちは山々なんですけど、あっちで今日負けて来たんですよ」

自分は今出てきたパチ屋を指さし、申し訳なさそうに断った。

これで諦めるだろ、と思いきやオッサンは予想外の反応を見せてきた。

「はは、兄ちゃんもか〜!いくら負けたの?」

「1万負けちゃいました、はは…」

互いに笑い合った後、オッサンは金額を下げ交渉に挑んできた。

「2000円ならどう?」

「2000円ですか〜?う〜ん」

腕を組みさも悩んでる素振りを見せると、彼は2000円から1000円まで金額を下げてきた。

こちらが譲歩することで相手に要求を通しやすくする「ドア・イン・ザ・フェイス」という心理テクニックがある。
きっと彼はそれを狙っているのだろう。

当初3000円だったのが1000円に下がったのだ。
自分は彼の策にまんまと引っかかり、1000円を手渡した。

オッサンと別れた後、後ろを振り返ると彼はパチ屋の中へ消えていった。