サンタなんてないさ、サンタなんて嘘さ、寝ぼけた人が見間違えたのさ

サンタの正体を知ったのはいつ頃だろうか。
プレゼントの量が徐々に減って行った時だろうか、違う。
願い通りのプレゼントが届かなかった時だろうか、違う。
偶然、車のトランクを覗き、プレゼントが置いてあることを知った時だろうか、違う。

だが、これらの出来事は徐々に自分に「サンタはいないのではないか?」という気持ちを植え付けていった。

特に決定打になった出来事が起きたのは、小学4年生。クリスマスイブの晩だったと思う。
クリスマスイブ、子どもにとって一番ワクワクする日と言っても過言ではない。サンタという幻の人物がプレゼントを届けてくれるビッグイベント。当然自分もワクワクしながら帰宅した。

しかし、その年はクリスマスツリーが飾られておらず、帰宅した際、家の中の空気がどことなく重かった。

子どもだった自分は、この雰囲気を感じながらも、自分とは関係ないといった風に考えていた。
そうして、翌日に届くプレゼントに想いを馳せながら風呂に入っていた。

風呂から上がると、母が深刻そうな表情を浮かべ自分に声をかけてきた。
「とむ…今年のクリスマスプレゼントは無いから。」
と告げられた。文面だけ見ると冷たい印象に感じるが、母は本当に申し訳なさそうに謝ってきた。おそらくお金が無かったのだろう。

しかし、この時、「サンタはいない」という事実と「クリスマスプレゼントが無い」という、ダブルで衝撃的な事実が自分を襲った。

いや、当時小学4年生、サンタはいないと薄々感づいていたが、親がバラすまではそのままでいようと決めていたのに、まさかこのような形でカミングアウトされるとは思っていなかった。

その出来事が決定打となり、自分はサンタと言う幻想と決別した。大人の階段を1つ登ったのだ。



時は流れて、自分は小さい妹にクリスマスプレゼントを上げる側となった。そう、自分がサンタになる番が来たのだ。
欲しいプレゼントのヒアリング、予算の確保、買い出し日と隠蔽工作、いざ自分が現場に立ってみると、サンタというのは実に仕事が多いと思い知った。

プレゼントの買い出し日、おもちゃ屋には大人しかいなかった。おそらく、彼らもまた”サンタ”なのだろう。

そして、クリスマスイブの深夜、寝静まったタイミングでプレゼントを置く。これで任務完了だ。
達成感と疲労に包まれながら、その日は就寝した。翌日、妹の喜ぶ声を目覚まし代わりに目を醒ましたが、この喜んだ表情が見れるのはサンタの特権だろう。サンタというのも割と悪くないのかもしれない。